地震は建物やインフラに直接的な被害をもたらしますが、その影響はハードウェアの破損にとどまりません。サーバー、パソコン、外付けHDD、スマートフォンなど、企業の情報資産が瞬間にして失われるリスクがあります。近年の地震では、被災地の企業が重要なデータを失い、事業再開に数ヶ月を要するケースが相次いでいます。
万が一の被害時に企業が迅速に事業を再開するには、単に建物の耐震化だけでなく、データそのものの保全戦略が不可欠です。
本記事では、地震時のデータ消失リスク、万が一の対応方法、そして事前に講じるべきバックアップ戦略やBCP構築について、企業規模別に具体的な対策をご紹介します。
地震時のデータ消失リスクとは
地震によるデータ消失は、建物の倒壊や機器の転倒など、複数の要因で発生します。サーバーやパソコン、HDD、スマートフォンなど、企業が保有するあらゆるデバイスがダメージを受ける可能性があり、その被害は本社だけでなく、テナント内の関連企業やサプライチェーン全体に波及することもあります。
さらに深刻なのは、データが消失すると、その復旧に数週間から数ヶ月を要し、その間の事業停止による損失が莫大になるということです。地震による直接的な被害に加えて、情報資産の喪失がもたらす経営への影響を認識し、事前対策を講じることが企業存続の鍵になります。
万が一データが消失した場合の対応
地震による機器破損でデータが消失する恐れがある場合、その後の対応が復旧可能性を大きく左右します。物理的なダメージを受けた機器は非常にデリケートな状態にあり、焦って対応を誤るとデータを完全に復旧不可能にしてしまいます。重要なのは、冷静に正しい初期対応を取り、適切な専門家に相談することです。
ここでは、データ消失直後から復旧業者への相談までのステップについて説明します。
電源投入とデータ悪化の防止
破損したパソコンやサーバーの機器がある場合、最も重要なのは「電源を入れない」ことです。通電や再起動を試みると、破損した部品がさらにデータを傷つけ、復旧できなくなる恐れがあります。
特にHDD(ハードディスクドライブ)が物理的にダメージを受けている場合、通電することでプラッタ(磁気ディスク)に傷がつき、回復不可能な状態になります。同様に、水没した機器を無理に乾かそうと自然乾燥させたり、ドライヤーで温めたりすることも避けましょう。
代わりに、機器を現在の状態のまま保管し、できるだけ早く専門の復旧業者に相談することが安全です。焦らず、慎重に対応することが、復旧確率を大きく高めます。
データ復旧業者へ相談
物理的な故障が疑われる場合、無理に自分で復旧しようとしてはいけません。デジタルデータ復旧の専門業者に診断を依頼することが最も確実です。
相談する際には、破損機器の種類(パソコン、外付けHDD、スマートフォンなど)、どのような物理的ダメージを受けたか(水没、落下、激しい揺れなど)、具体的にどのようなデータの復旧を希望しているかを詳しく伝えましょう。専門業者は機器の内部を無菌室のような環境で分解・検査し、物理的な損傷程度を確認した上で、復旧の可能性と復旧期間、必要な費用を提示します。
すべてのデータが必ず復旧できるわけではありませんが、適切な初期対応を取ることで、復旧確率を大幅に高めることができます。
地震に備えたデータ保全戦略
万が一地震が発生した場合に企業のデータを守るには、事前の対策が不可欠です。データ消失を完全に防ぐことは難しいですが、事前に対策を講じることでリスクを大幅に低減することができます。クラウドサービスの活用とバックアップ戦略を組み合わせ、複数の場所にデータを保管する仕組みを構築することが、地震対策における最も効果的なアプローチです。
- クラウドサービスの活用
- バックアップの3-2-1ルール
- BCP(事業継続計画)の構築
ここでは、具体的な保全戦略について見ていきましょう。
クラウドサービスの活用
クラウドサービスを利用することで、企業の重要なデータを物理的に分散させることができます。
例えば、Microsoft 365やGoogle Workspaceなどのクラウドベースのオフィススイートを利用すれば、ファイルは自動的に複数の地域のデータセンターに複製されます。地震で本社のサーバーが損壊しても、クラウド上のデータは別の地域で保護されているため、インターネット接続が復旧すればすぐにアクセス可能です。
さらに、リアルタイム同期機能により、従業員が作成・編集したファイルが常に最新の状態でクラウドに保存されます。ただし、クラウドサービスの選定時には、サービス提供企業のデータセンターの所在地や耐震性を確認し、地理的に分散している事業者を選ぶことが重要です。
バックアップの3-2-1ルール
効果的なバックアップ戦略には、業界標準の「3-2-1ルール」を適用することが推奨されています。これは、「3つのコピーを保有すること」「2つの異なるメディアに保存すること」「1つはオフサイト(遠隔地)に保管すること」という3つの原則です。
具体的には、本番データ1つ、社内HDD(または社内バックアップサーバー)1つ、クラウドストレージ1つの合計3つのコピーを保有します。メディアについては、磁気ディスク(HDD)とテープ、あるいはクラウドストレージなど、性質の異なるメディアを使用することで、同じ障害が全てのバックアップを破壊するリスクを低減します。
BCP(事業継続計画)の構築
クラウドサービスとバックアップ戦略を講じても、それを「いざという時に活用できるのか」を事前に確認することが重要です。BCP(事業継続計画)とは、地震などの災害が発生した際に、企業がいかに迅速に事業を再開するかを定めた計画です。
BCPの策定には、RTO(目標復旧時間:どのくらいの時間で事業を再開するのか)とRPO(目標復旧地点:いつの時点のデータまで復旧するのか)を明確に設定することが重要です。例えば、「24時間以内にシステムを復旧する」「最大1時間分のデータ損失は許容する」といった目標を定めましょう。
さらに重要なのは、この計画が本当に機能するのかを定期的にテストすることです。年1回以上、実際に別拠点からシステムにアクセスし、バックアップからのデータ復旧を試みるリカバリテストを実施することで、計画の実効性を確認できます。
企業規模別の対策
地震に備えたデータ保全戦略は、企業の規模や予算によって異なります。大企業と中小企業では、利用できるリソースやセキュリティ要件に大きな違いがあるためです。大規模な情報資産を保有する大企業は、専門的なデータセンターの活用が現実的です。
一方、限られた予算で対策を進める中小企業には、クラウドストレージと定期的なバックアップという、よりシンプルで費用効率的なアプローチが適しています。ここでは、企業規模別の具体的な対策について見ていきましょう。
大企業向け|データセンターの活用
大企業が地震対策でデータを保全するには、耐震性に優れた専門のデータセンターを活用することが効果的です。信頼性の高いデータセンターは、免震装置の搭載、自家発電設備、二重化されたネットワークインフラなど、複数の防災対策を備えています。
さらに重要なのは、複数地域にデータセンターを分散配置することです。本社がある地域に集中させず、東日本と西日本など、地理的に離れた複数のデータセンターに重要なシステムやデータを分散配置することで、地域限定的な大規模地震による一括消失を防ぐことができます。
また、定期的にデータセンター間でデータの同期を行い、リアルタイムに近い復旧が可能な仕組みを構築することで、RTO短縮を実現できます。これらのインフラは初期投資と運用コストが高いですが、大企業にとって情報資産の喪失は経営存続に関わるため、投資に見合う価値があると言えるでしょう。
中小企業向け|コスト効率的な対策
中小企業が地震対策でデータを保全する場合、大規模なデータセンターの契約は予算的に難しいことも少なくありません。代わりに、クラウドストレージサービス(OneDrive、Googleドライブ、Dropboxなど)と外付けHDDの組み合わせが現実的です。
クラウドストレージであれば、月額数千円程度の低コストで複数地域への自動バックアップが実現でき、インターネット接続さえあれば、どこからでもアクセス可能です。加えて、月1回程度の頻度で重要なデータを外付けHDDにバックアップし、それを別の場所(自宅、親会社など)に保管することで、3-2-1ルールを満たすことができます。この方法であれば、追加コストは年間数万円程度に抑えられます。
さらに効果的なのは、業務システムをクラウドベースに移行することです。オンプレミスのサーバーを廃止し、クラウドサービスに集約することで、物理的な機器に依存しない堅牢な体制が実現できます。
まとめ|機器保護だけでは不十分!データ保全戦略が企業存続を左右する
地震は予測不可能で、いつ発生するかわかりません。建物の耐震化は重要ですが、それだけではデータを守ることはできません。東日本大震災や令和6年能登半島地震の被災地でも、建物は耐えてもサーバーやパソコンが破損し、重要なデータを失った企業が数多く存在します。データの喪失は、事業停止、顧客信頼の喪失、復旧にかかる莫大なコストをもたらし、最悪の場合、企業の存続そのものを脅かします。
万が一の被害時に迅速に事業を再開できるかどうかは、事前の対策が非常に重要です。貴社のデータ保全戦略の見直しや、BCP構築をお考えでしたら、ぜひアジアネットにご相談ください。ネットワーク構築から、バックアップシステム設計、データセンター選定支援まで、貴社の事業継続を支援するトータルソリューションをご提案いたします。