近年、委託先での情報漏洩事故が企業経営に深刻な影響を与えていることをご存知でしょうか。
多くの経営者が「委託先の事故は委託先の責任」と考えがちですが、実際には委託元企業も重大な法的責任を負うケースが大半です。「契約書があるから大丈夫」という認識では、もはや企業を守ることはできません。委託先管理は企業のリスクマネジメントにおける最重要課題の一つとなっています。
本記事では、委託先の情報漏洩で委託元企業が負う具体的な法的責任から、実際の被害事例、そして効果的な予防対策まで、企業が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。
委託先の情報漏洩で委託元が負う責任とは
委託先で情報漏洩が発生した場合、「委託先の問題だから自社は関係ない」と考えるのは大きな誤りです。法律上、委託元企業は委託先を適切に監督する義務を負っており、この義務を怠った場合には重大な法的責任を問われることになります。
特に個人情報を扱う業務委託では、委託元・委託先双方が連帯して責任を負う構造となっており、委託元企業のリスクは想像以上に大きなものとなっています。
個人情報保護法上の監督義務違反
個人情報保護法では、個人データの取り扱いを委託する際に委託元が委託先を適切に監督することを義務づけています。具体的には、委託先の選定時における安全管理措置の確認、委託契約での適切な取り決め、委託先での個人データ取扱状況の定期的な確認などが必要です。
これらの義務を怠り、委託先で個人情報漏洩が発生した場合、個人情報保護委員会から行政指導や命令、さらには法人に対して1億円以下の罰金が科される可能性があります。また、個人情報保護委員会への報告義務も委託元・委託先双方に課せられており、適切な報告を怠った場合も処罰の対象となるため、気をつけなくてはなりません。
民法上の使用者責任(民法715条)
民法第715条に基づく使用者責任により、委託先の従業員が業務中に起こした情報漏洩について、委託元企業も連帯して損害賠償責任を負う場合があります。この責任は、委託先との間に実質的な指揮命令関係が認められる場合や、委託元が委託先の業務に深く関与している場合に適用されやすくなります。
特に、委託先の選定や監督を怠った場合には、委託元の過失として責任を問われるリスクが高まるでしょう。使用者責任は無過失責任であるため、委託元企業としては「委託先を信頼していた」という理由だけでは免責されず、具体的な監督義務の履行が証明できなければ賠償責任を免れることは困難です。
顧客への損害賠償責任
委託先での情報漏洩により顧客に損害が生じた場合、委託元企業は直接的に顧客への損害賠償責任を負います。これは契約責任として、顧客との間で締結した契約上の守秘義務違反に基づくものです。
損害賠償の範囲は、直接損害に加えて、精神的損害に対する慰謝料、さらには信用失墜による間接損害まで及ぶ可能性があります。近年の裁判例では、個人情報1件あたり数千円から数万円の慰謝料が認められるケースもあり、大規模漏洩の場合は数億円規模の賠償請求に発展することも。また、集団訴訟のリスクもあり、企業の存続に関わる深刻な事態となる可能性があります。
深刻な被害をもたらした委託先漏洩事例
委託先での情報漏洩は一企業の問題にとどまらず、委託元企業群全体に甚大な被害をもたらします。2025年に発生した以下の事例は、サプライチェーン攻撃の脅威と委託先管理の重要性を如実に示しています。
卒業アルバム制作会社の被害
2025年上半期の深刻な委託先漏洩事例の一つが、卒業アルバム制作業務を担う企業への攻撃です。
卒業アルバム制作業務を担う2社で発生したランサムウェア被害で合計146件のインシデント報告がありました。この事例では、制作会社2社への一度の攻撃が、全国の学校や教育機関など146の委託元組織に情報漏洩被害をもたらしました。
卒業アルバムという業務の性質上、児童・生徒の個人情報や学校関係者の機密情報が大量に流出し、教育現場に深刻な影響を与えています。委託元である各学校は、保護者への説明責任や再発防止策の実施など、長期間にわたる対応を余儀なくされました。
保険代理店グループの被害
保険業界でも深刻な委託先漏洩が発生しました。保険代理店グループで発生したランサムウェア被害で34件のインシデント報告があり、グループ全体の関連企業34社に被害が拡散しました。保険業界は顧客の機密性の高い財務情報や健康情報を扱うため、情報漏洩の社会的影響は極めて深刻です。
この事例では、代理店グループという中核企業への攻撃が、グループ傘下の代理店や関連会社に連鎖的に波及し、数万件規模の顧客情報漏洩リスクが発生しました。各代理店は顧客への個別通知や信頼回復のための施策実施など、多大なコストと労力を要する事後対応に追われることとなりました。
参照:2025年上半期国内セキュリティインシデント集計 | Digital Arts Security Reports|デジタルアーツ株式会社
委託先の情報漏洩を防ぐ予防対策
委託先での情報漏洩を防止するためには、委託開始前の準備から運用時の継続的な管理まで、包括的なアプローチが必要です。「委託先を信頼する」だけでは不十分であり、法的責任を果たすためにも、具体的で実効性のある対策を段階的に実施することが重要です。
- 委託先選定時のセキュリティ審査
- 委託契約における安全管理措置の明記
- 定期的な監査とモニタリング体制の構築
- インシデント対応計画の事前策定
ここでは、中小企業でも実践可能な4つの主要な予防対策について詳しく解説します。
委託先選定時のセキュリティ審査
委託先選定においては、価格や実績だけでなく、セキュリティ体制の詳細な審査が不可欠です。まず、候補企業のセキュリティ認証取得状況(ISO27001、プライバシーマークなど)を確認し、情報セキュリティポリシーや管理体制の文書化状況を評価しましょう。
さらに重要なのは、実際のセキュリティ対策の運用状況です。従業員のセキュリティ教育実施状況、アクセス制御の仕組み、ウイルス対策やファイアウォールの導入状況、バックアップ体制などを具体的にヒアリングし、必要に応じて現地での確認も実施します。
また、過去のインシデント発生歴とその対応状況についても確認し、透明性を持って回答できる委託先を選定することが重要です。
委託契約における安全管理措置の明記
委託契約書には、個人情報保護法で求められる安全管理措置を具体的かつ詳細に明記する必要があります。単に「適切に管理する」といった抽象的な表現では法的保護は期待できません。具体的には、
- 取り扱う個人データの種類と範囲
- アクセス権限者の限定と管理方法
- データの保管場所と保管期間
- 廃棄方法と証明書の提出
- 委託先従業員への教育義務
- 再委託の制限と事前承認制
- セキュリティインシデント発生時の報告義務(報告先、報告期限、報告内容)
- 委託元による監査権限と実施頻度
などを明文化します。
また、違反時の契約解除条件や損害賠償責任についても明確に規定し、委託先に対する抑制効果を持たせることも重要です。
定期的な監査とモニタリング体制の構築
委託開始後も継続的な監督が法的に求められており、定期的な監査とモニタリング体制の構築が不可欠です。
定期監査では、契約書で定めた安全管理措置の履行状況を詳細に確認し、書面だけでなく実際の運用状況を現地で確認することが効果的です。
日常的なモニタリングでは、委託先からの月次報告書による取扱状況の把握、セキュリティインシデントの有無確認、従業員の入退社に伴うアクセス権限の変更状況確認などを実施しましょう。さらに、委託先のセキュリティ対策に変更があった場合の事前相談制度や、第三者によるセキュリティ診断の定期実施を求めることで、客観的な安全性確保を図ることができます。
インシデント対応計画の事前策定
情報漏洩が発生した場合の迅速かつ適切な対応のため、委託先との間で詳細なインシデント対応計画を事前に策定しておくことも大切です。
まず、インシデントの定義と報告基準を明確化し、「漏洩の疑い」段階での速やかな報告体制を構築しましょう。連絡体制では、委託先の報告責任者と連絡先、委託元の受付担当者、エスカレーション手順を具体的に定め、24時間365日対応可能な体制を整備します。
報告内容には、発生日時、影響範囲、原因、対応状況、今後の対応予定を含める標準フォーマットを準備し、混乱時でも適切な情報収集ができるようにしておくのが良いでしょう。また、個人情報保護委員会への報告や本人通知の役割分担、メディア対応の方針、原因調査の実施方法についても事前に合意しておくことで、インシデント発生時の対応遅れを防ぐことができます。
まとめ|委託先管理は企業の生命線!包括的な対策でリスクを回避
委託先での情報漏洩は、もはや「委託先の問題」ではなく「委託元企業の経営リスク」そのものです。個人情報保護法上の監督義務違反、民法上の使用者責任、顧客への損害賠償責任など、委託元企業が負う法的責任は極めて重大であり、一度の漏洩事故が企業の存続を脅かす事態となりかねません。
重要なのは、委託先選定時の厳格なセキュリティ審査、委託契約での具体的な安全管理措置の明記、定期的な監査とモニタリング、そして事前のインシデント対応計画策定といった包括的な対策を継続的に実施することです。これらの対策は法的責任を果たすためだけでなく、企業の信頼性確保と持続的成長のために不可欠な投資といえるでしょう。
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