近年、地震や台風、豪雨災害などの自然災害が頻発する中、企業の情報セキュリティ対策において「災害リスク」は無視できない重要な課題となっています。実際、2011年の東日本大震災や2018年の西日本豪雨では、多くの企業がデータ損失やシステム停止により深刻な事業影響を受けました。
特に中小企業では、一度のデータ消失や長期間のシステム停止が事業継続の危機に直結するため、適切な災害対策が生命線となります。
本記事では、自然災害が企業の情報セキュリティに与える具体的なリスクから、中小企業でも実践できる効果的な対策方法まで、災害に負けない強固な情報システム構築のポイントを詳しく解説します。
自然災害時に発生する主要な情報セキュリティリスク
自然災害が企業に与える情報セキュリティリスクは多岐にわたり、その影響は災害発生時から復旧期間中まで長期間続きます。これらのリスクを正しく理解し、事前に対策を講じることが企業の生存戦略として非常に重要です。
- 物理的損害によるデータ消失
- 通信インフラ障害による業務停止
- 災害に便乗したサイバー攻撃
ここでは、特に深刻な影響をもたらす3つの主要リスクについて、具体的な被害例とその対策の重要性を詳しく解説していきます。
物理的損害によるデータ消失
地震による建物倒壊や津波・洪水による浸水は、社内に設置されたサーバーやPC、外付けハードディスクなどの記憶装置を物理的に破壊し、データを完全に消失させる可能性があります。特に、紙の書類とデジタルデータを同じ場所に保管している企業では、バックアップも含めて全てを失うリスクが高まります。
火災による機器の焼失や、停電時の不適切なシャットダウンによるデータ破損も深刻な問題です。こうした物理的損害は、適切なバックアップ体制や分散保存の仕組みがなければ、企業の長年にわたる業務データや顧客情報を一瞬で失う致命的な結果をもたらしかねません。
通信インフラ障害による業務停止
大規模災害時には、電話回線やインターネット回線が広範囲にわたって遮断され、企業の通信手段が完全に断たれる事態が発生します。現代の企業業務はクラウドサービスへの依存度が高いため、通信回線の断絶は即座に業務停止につながります。
さらに、停電により社内ネットワーク機器が停止すると、たとえ一部の通信回線が復旧しても社内システムにアクセスできない状況が続くでしょう。モバイル回線も基地局の被災により使用できなくなるケースが多く、従業員同士の連絡すら困難になる可能性があります。
このような通信遮断は、顧客への連絡ができない、受注処理が停止する、在宅勤務への切り替えができないなど、事業継続に致命的な影響を与えます。
災害に便乗したサイバー攻撃
災害発生時の混乱状況は、サイバー犯罪者にとって絶好の攻撃機会となります。具体的には、被災地支援を装った偽のメールで義援金の振り込みを求めたり、災害情報の提供を名目に個人情報を盗み取ろうとしたりする手口が横行します。
中でも、企業が特に警戒すべきは、災害復旧業者や保険会社を名乗る偽のサポート連絡です。混乱した状況では判断力が低下しがちで、普段なら見抜けるような詐欺にも引っかかりやすくなります。さらに、緊急事態によりセキュリティ対策が後回しになったシステムを狙った侵入攻撃や、社内の監視体制が手薄になった隙を突いたデータ窃取なども深刻な脅威となります。
自然災害に備える情報セキュリティ対策
自然災害による情報セキュリティリスクを最小化するためには、事前の準備がカギとなります。災害が発生してからでは手遅れになるため、平常時から包括的な対策を講じておく必要があります。
- 定期的なバックアップ体制構築
- BCP(事業継続計画)の策定
- システム停止に備えた代替環境の構築
- 従業員への災害対応教育
ここでは、中小企業でも実践可能な4つの重要な対策について、具体的な実装方法と注意点を詳しく見ていきましょう。
定期的なバックアップ体制構築
データ保護の基本となるバックアップ体制では、「3-2-1ルール」の実践が効果的です。これは、重要なデータを3つのコピーで保管し、2つの異なる媒体に保存し、1つは遠隔地に配置するという原則です。具体的には、社内サーバーでの自動バックアップに加え、外付けハードディスクへの定期コピー、さらにクラウドストレージへの遠隔保存を組み合わせます。
バックアップの頻度は業務の重要度に応じて設定し、顧客データや財務情報は毎日、その他のファイルは週単位で実施するなど、メリハリをつけることが重要です。また、バックアップデータの復旧テストを定期的に実施し、いざという時に確実にデータを復元できることを確認しておく必要があります。単にバックアップを取るだけでなく、実際に使える状態で保管されているかの検証が災害対策の成否を左右します。
BCP(事業継続計画)の策定
BCP(Business Continuity Plan)は、災害時に企業が事業を継続するための具体的な行動計画です。まず、自社の業務を「停止できない重要業務」「一時停止可能な業務」「延期可能な業務」に分類し、災害時の優先順位を明確化します。次に、重要業務を継続するために必要な最小限の人員、設備、システムを特定し、それらが利用できない場合の代替手段を準備します。
具体的には、主要な取引先との連絡方法、従業員の安否確認手順、代替オフィスでの業務継続方法、重要システムの復旧手順などを詳細に定めましょう。また、災害の規模に応じた段階的な対応レベルを設定し、被害状況に応じて適切な対応を取れるよう準備します。BCPは年に1回以上見直しを行い、事業環境の変化や新たなリスクに対応できるよう常に最新の状態に保つことが重要です。
システム停止に備えた代替環境の構築
重要なシステムが災害により停止した場合に備えて、代替手段を事前に準備しておくことも必要です。クラウドサービスを活用した代替システムの構築が最も現実的で、主要な業務アプリケーションのクラウド版を普段から並行運用しておくことで、災害時の切り替えがスムーズになります。また、モバイル回線を使用したインターネット接続環境や、ノートPCを使った移動可能な業務環境の整備も効果的です。
特に重要なシステムについては、自動的に代替環境に切り替わる仕組みの導入を検討するのが良いでしょう。例えば、メールシステムや顧客管理システムが停止した場合、予め設定した代替サービスが自動的に稼働するような設定にしておく方法が考えられます。ただし、完全な自動化は高コストになるため、中小企業では手動での切り替え手順を明文化し、担当者が迅速に対応できる体制を整備することから始めることをおすすめします。
従業員への災害対応教育
災害時の情報セキュリティ対策は、システムだけでなく従業員の適切な行動に大きく依存します。まず、災害発生時の連絡体制を全従業員に周知し、安否確認の方法や緊急時の報告先を明確にしましょう。また、災害時でも守るべきセキュリティルール(例:不審なメールには返信しない、公衆Wi-Fiで業務を行わない)を教育し、混乱した状況でも冷静な判断ができるよう訓練することも重要です。
特に、在宅勤務への緊急切り替えや、個人デバイスを使用した業務継続時のセキュリティ注意点については、具体的な操作方法まで含めて教育しておくのが良いでしょう。
中小企業でも実践できる低コスト災害対策
中小企業では「災害対策は重要だが、予算に限りがある」という悩みを抱えることが少なくありません。
しかし、大企業のような高額な設備投資をしなくても、工夫次第で効果的な災害対策を実現することは十分可能です。
ここでは、中小企業でも無理なく導入できる、コストパフォーマンスに優れた災害対策の具体的な方法を詳しく解説します。
SaaSを活用したリスク分散
SaaS(Software as a Service)の活用は、中小企業にとって低コストで始められる災害対策の一つです。Google Workspace、Microsoft 365、サイボウズOfficeなどのクラウドサービスを利用することで、自社でサーバーを保有するリスクを回避できます。
これらのサービスは月額数千円から利用でき、世界各地のデータセンターでデータが冗長化されているため、一箇所で災害が発生しても業務継続が可能です。さらに、会計ソフトのfreeeやマネーフォワード、顧客管理のSalesforceなど、業務の中核となるシステムをクラウド化することで、オフィスが被災しても別の場所から同じ環境で業務を継続できます。
予算に合わせた段階的な対策実装
災害対策を一度にすべて完璧にしようとすると高額な投資が必要になりますが、段階的なアプローチを取ることで予算負担を分散できます。初期の段階では、重要な顧客データと財務データのクラウドバックアップから始めるのが良いでしょう。Google DriveやDropboxの法人プランを活用すれば、月額数千円で重要ファイルの自動バックアップが可能です。
また、初期投資を抑えるため、まずは無料プランや試用版から始めて効果を検証し、必要に応じて有料プランにアップグレードする方法も効果的です。年間予算を決めて月割りで対策を進めることで、経営への負担を最小化しながら災害に強い体制を構築できます。
まとめ|備えあれば憂いなし!災害に強い情報システムを構築しよう
自然災害による情報セキュリティリスクは、適切な事前準備により大幅に軽減することができます。重要なのは、完璧なシステムを一度に構築しようとするのではなく、バックアップ体制の確立、BCPの策定、SaaSの活用など、自社の規模と予算に合わせた段階的なアプローチを取ることです。
情報通信インフラの構築を手がけるアジアネットでは、災害対策を含む包括的な情報セキュリティ体制の整備を支援しています。
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