

クラウドサービスの導入を検討する際、多くの企業が直面するのが、どれを選ぶべきかという課題です。有力な選択肢として上がるのは、主要クラウドサービスである「AWS」「Azure」「Google Cloud」の3社。いずれも世界的に高いシェアを誇る主要ベンダーですが、提供機能や得意分野、料金体系などには明確な違いがあります。
本記事では、各サービスの基本情報から強みの比較、選定ポイントまでをわかりやすく整理し、クラウド導入を検討する企業や担当者に向けた実用的な視点で解説します。
目次
クラウドサービスとは、インターネットを通じてサーバー・ストレージ・データベース・AI機能などのITリソースをオンデマンドで利用できるサービスの総称です。その中でも特に注目されているのが、「AWS(Amazon Web Services)」「Microsoft Azure」「Google Cloud」の3大クラウドです。
これらは「三大クラウドベンダー」とも呼ばれ、グローバルはもちろん、日本国内でも幅広い業種・企業規模において導入実績があります。それぞれのサービスは共通する基本機能を持ちながらも、開発元企業の強みを活かした独自の特徴や得意分野があります。
ここでは、3社のクラウドサービスの基本的な概要を見ていきましょう。
AWS(Amazon Web Services)は、2006年にAmazonが商用サービスとして提供を開始した世界初のパブリッククラウドであり、現在も世界シェアNo.1を誇ります。提供サービス数は200以上にのぼり、あらゆる業界・業種に対応可能な圧倒的な拡張性と柔軟性が特徴です。
スタートアップから大企業、官公庁まで幅広く採用されており、グローバルなデータセンター展開も進んでいます。特にコンピューティング(EC2)、ストレージ(S3)、データベース(RDS)などの基幹機能の信頼性が高く、豊富なドキュメントやパートナーエコシステムも魅力です。
Microsoft Azureは、2010年に提供が開始されたMicrosoftのクラウドプラットフォームで、Microsoft 365やWindows Server、Active Directoryなどとの親和性が高いことが最大の特徴です。
特に既存のオンプレミス環境とクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウド構成に強く、多くの企業が段階的なクラウド移行に活用しています。Visual StudioやGitHubとの連携、Windows環境での開発・運用のしやすさも開発者から支持される理由です。
また、日本国内でも官公庁や教育機関を含む導入実績が豊富で、日本リージョンでの展開とサポート体制も充実しています。
Google Cloud(正式名称:Google Cloud Platform, GCP)は、Googleが提供するクラウドサービス群で、ビッグデータ解析やAI機能に強みを持つのが特徴です。検索エンジンやYouTube、Gmailなど、Google自社のサービスを支えるインフラ技術がベースとなっており、高いパフォーマンスと可用性を備えています。
特に、BigQueryやVertex AIなどのデータ分析・機械学習サービスは、研究開発・DX分野で高く評価されており、スタートアップからグローバル企業まで導入が進んでいます。
Google Workspace(旧G Suite)との連携もスムーズで、クラウドネイティブなワークスタイルを推進する企業との相性が良いのも特長です。
AWS・Microsoft Azure・Google Cloudはいずれも、クラウドインフラの基本機能を幅広く提供しています。以下の表では、各社の代表的な機能をカテゴリ別に比較し、導入時の参考になるように整理しています。
基本機能カテゴリ | AWS | Microsoft Azure | Google Cloud |
コンピューティング | EC2、Lambda、ECSなど | Azure Virtual Machines、Functions | Compute Engine、Cloud Functions |
ストレージ | S3、EBS、Glacierなど | Blob Storage、Disk Storageなど | Cloud Storage、Persistent Diskなど |
データベース | RDS、DynamoDB、Auroraなど | SQL Database、Cosmos DB | Cloud SQL、Bigtable、Firestoreなど |
ネットワーク | VPC、Route 53、CloudFrontなど | Virtual Network、Azure DNS、CDN | VPC、Cloud Load Balancing、Cloud CDN |
セキュリティ | IAM、KMS、WAF、GuardDuty | Active Directory、Defender for Cloud | IAM、Cloud Armor、Security Command Center |
AI/機械学習 | SageMaker、Comprehendなど | Azure Machine Learning、Cognitive Services | Vertex AI、Dialogflow、AutoMLなど |
分析/BI | Redshift、QuickSightなど | Synapse Analytics、Power BI | BigQuery、Looker |
このように、基本機能のカテゴリは共通していても、設計思想や得意分野、使いやすさは各社で大きく異なります。そのため、導入目的に合った機能を中心に比較検討するのが良いでしょう。
AWS・Azure・Google Cloudはいずれも多機能で高性能なクラウドサービスですが、それぞれに得意とする領域があります。導入目的や既存環境に合わせて選定するためにも、各社の特徴を理解しておくことが重要です。
AWSは、世界で最も早く商用クラウドサービスを展開した先駆者として、現在でもクラウド市場シェアのトップを維持しています。提供するサービス数は200を超え、コンピューティングやストレージはもちろん、IoT、ロボティクス、メディア処理まで多岐にわたります。
特に評価されているのが、その拡張性と信頼性です。世界中に展開されたデータセンターと豊富なリージョンによって、グローバルビジネスに対応しやすく、大規模企業からスタートアップまで幅広い業種に採用されています。
また、ドキュメントや開発者コミュニティが非常に充実しており、社内でのスキル習得や導入後の内製化にも取り組みやすいのも強みです。
Azureは、WindowsやMicrosoft 365との高い親和性を武器に、企業のITインフラとスムーズに統合できるクラウドサービスです。特に、既にMicrosoft製品を導入している企業にとっては、最小限の変更でクラウド化を進められる点が大きなメリットです。
また、オンプレミス環境とのハイブリッド構成が得意で、Active DirectoryやWindows Serverとの連携もスムーズ。企業システムの段階的なクラウド移行に適しています。
さらに、Power BIやDynamics 365との連携により、業務データの可視化や業務プロセスの効率化も実現しやすいため、企業全体でのDX推進にも活用されています。
Google Cloudは、Googleが培ってきたビッグデータ処理とAI技術を活かし、機械学習やデータ分析に特化した機能を多数展開しているのが特長です。BigQueryやVertex AIなどのツールは、大規模なデータセットの高速処理や高度な予測モデルの構築を可能にします。
また、Google Workspaceとの連携によって、クラウドネイティブな働き方やコラボレーション環境の強化にも貢献。リモートワークやグローバル展開を見据えた企業に適しています。
環境面でも、Googleは再生可能エネルギーによるデータセンター運営に積極的で、サステナビリティ重視の企業からの支持も集めています。
主要クラウドベンダーはいずれも高機能なプラットフォームを提供していますが、「どのサービスが自社に最適か」を判断するには、自社の状況や目的に応じた比較軸を持つことが不可欠です。
ここでは、クラウド選定時に押さえておきたい3つの観点を紹介します。
まず重視すべきは、自社の業務内容や業界特性とクラウドの相性です。
例えば、ECサイトやメディア事業を展開している企業であれば、AWSのようなスケーラビリティを備えた環境が適しています。一方、金融・医療・教育といった分野では、セキュリティやコンプライアンス対応が強固なAzureが選ばれるケースも多いです。
また、データサイエンスを中核に置く企業やスタートアップでは、Google CloudのAI・分析機能が大きな武器になります。
クラウドは導入して終わりではなく、将来の事業拡大やニーズ変化に応じて柔軟にスケールできるかが重要です。
AWSはサービス数・リージョン数ともに世界最大規模で、グローバル展開や高負荷処理への対応力に優れています。一方、Azureはオンプレミスと組み合わせた段階的な拡張に対応しやすい点が魅力です。Google Cloudはクラウドネイティブな設計により、開発スピードや新技術の吸収力が高いとされています。
将来のビジネス変化や技術トレンドに柔軟に対応できるかを見据えておくことで、長期的な投資効果が大きく変わります。
企業の多くは、すでにオンプレミス環境や他のSaaSと業務システムを構築済みです。そのため、新たなクラウド導入時には、既存環境とスムーズに連携できるかが大きなポイントになります。
AzureはMicrosoft 365やWindows Server、Active Directoryとの連携が極めてスムーズで、すでにMicrosoft製品を活用している企業にとっては最小限のコストと工数でクラウド化を実現可能です。
また、AWSやGoogle Cloudも多くの連携オプションを持っているため、独自APIやオープンソースとの統合性を重視する企業に向いています。既存資産をどれだけ有効活用できるかが、初期導入の障壁を左右する要素となるでしょう。
AWS・Azure・Google Cloudはいずれも高機能かつ信頼性の高いクラウドサービスですが、導入目的や業務内容によって最適な選択肢は異なります。
Microsoft製品との連携を重視する企業にはAzure、データ分析やAI活用を視野に入れるならGoogle Cloud、豊富なサービス群と実績を活かしたいならAWSが有力です。単に機能だけで比較するのではなく、自社の業種やIT資産、将来の拡張性も含めて慎重に選定しましょう。
最適なクラウドサービスの選定が、DX推進や業務効率化の成否を左右します。