クラウドサービスの普及により、Microsoft 365やZoom、Salesforceといったクラウドサービスを業務で利用する企業が急増しています。しかし、従来の企業ネットワークは、本社データセンターに通信を集約する構成が主流だったため、アクセス集中による遅延や回線の帯域不足が深刻な課題となっています。
こうした問題への対策として注目されているのが「インターネットブレイクアウト」です。拠点ごとに直接インターネットへ接続することで、クラウドサービス利用時のレスポンス改善や、ネットワーク運用コストの最適化が期待できます。
この記事では、インターネットブレイクアウトの基本的な仕組みをはじめ、導入によるメリットや注意点についてわかりやすく解説します。
インターネットブレイクアウトとは
インターネットブレイクアウトとは、クラウドサービス利用の増加に対応するために生まれた、新しい企業向けネットワーク構成の考え方です。従来のように本社へ通信を集約するのではなく、各拠点から直接インターネットへ接続することで、クラウド利用時の通信効率を高めます。
ここでは、インターネットブレイクアウトの概要や従来型ネットワークとの違い、導入が進んでいる背景について解説します。
インターネットブレイクアウトの定義
インターネットブレイクアウトとは、支店や営業所などの各拠点から、インターネットやクラウドサービスへ直接アクセスできるようにするネットワーク構成のことです。「ローカルブレイクアウト」と呼ばれることもあり、本社データセンターを経由せずに外部ネットワークへ接続する点が特徴です。
この仕組みでは、SD-WANなどの技術を用いて、特定のクラウドサービス向けの通信のみを識別し、安全性を保ったまま最適な経路へ振り分けています。
従来型ネットワークとの違い
これまでの企業ネットワークでは、全拠点からの通信が一度本社のデータセンターに集約され、そこからインターネットに接続する「集中型」の構成が一般的でした。例えば、支店のパソコンからMicrosoft 365にアクセスする場合でも、本社経由で通信するため、物理的な距離が長くなり通信遅延が発生していました。
一方、インターネットブレイクアウトでは、各拠点が直接インターネットへ接続する分散型の構成を採用します。これにより通信経路が大幅に短縮され、クラウドサービスへの快適なアクセスが実現します。
拠点→本社→インターネットという迂回ルートを排除することが最大の違いです。
インターネットブレイクアウトが必要な背景
インターネットブレイクアウトが注目される背景には、企業のクラウドサービス利用の急増があります。Microsoft 365、Zoom、Salesforce、Box、Slackなど、業務で使用するアプリケーションのクラウド化が進み、インターネット向けの通信トラフィックが爆発的に増加しました。
また、リモートワークやハイブリッドワークの普及により、自宅や外出先からのアクセスも増え、本社データセンター経由の従来型ネットワークでは帯域不足や通信遅延が深刻化したことも理由の一つです。
加えて、DX推進によって企業には柔軟性と高速性を備えたネットワーク環境が求められており、従来の構成だけでは対応が難しくなっています。こうした背景から、通信を効率化できるインターネットブレイクアウトへの注目が高まっています。
インターネットブレイクアウトの仕組み
インターネットブレイクアウトは、複数の技術を組み合わせることで、安全かつ効率的な通信を実現しています。主な仕組みとしては、以下の3つが挙げられます。
- 通信をアプリケーション単位で識別・振り分けている
- SD-WANが通信経路を柔軟に制御している
- セキュリティ機能と連携し、安全な通信環境を維持している
ここからは、インターネットブレイクアウトを実現する代表的な技術について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
通信をアプリケーション単位で識別・振り分けている
インターネットブレイクアウトでは、通信をアプリケーション単位で識別し、それぞれに適した経路へ自動的に振り分けています。例えば、Microsoft 365やZoom向けの通信は各拠点から直接インターネットへ接続し、社内基幹システムへのアクセスは従来通り本社データセンター経由といった具合に、送信先やアプリケーションの種類に応じて自動的に通信経路を判別します。
この識別は、IPアドレス、ドメイン名、ポート番号、アプリケーションの特性などを総合的に分析します。これにより、通信ごとに最適なルートを選択しながら、効率的で安定したネットワーク運用を実現しています。
SD-WANが通信経路を柔軟に制御している
SD-WAN(ソフトウェア定義型WAN)は、インターネットブレイクアウトを実現する中核技術です。従来のハードウェアベースのルーターとは異なり、ソフトウェアで通信経路を柔軟に制御できるため、アプリケーションごとに最適な経路を動的に選択できます。
SD-WANは、閉域網(VPN)、インターネット回線、モバイル回線など複数の回線を同時に管理し、通信の種類や優先度に応じて瞬時に経路を切り替えます。また、アプリケーションの可視化機能により、どの通信がどの経路を使用しているかをリアルタイムで把握でき、ネットワーク管理者は効率的な運用が可能です。
セキュリティ機能と連携し、安全な通信環境を維持している
インターネットブレイクアウトでは、各拠点が直接インターネットに接続するため、セキュリティ対策が不可欠です。そのため、次世代ファイアウォール(NGFW)やクラウド型セキュリティサービス(SSE/SASE)と連携し、不正アクセスやマルウェアから保護します。
たとえクラウドサービス向けの通信であっても、そのまま外部へ接続するのではなく、ファイアウォールで脅威をチェックし、安全が確認された通信のみをインターネットに送り出します。また、URLフィルタリング、侵入防止システム(IPS)、アンチウイルス対策などを併用することで、分散型ネットワークでありながら高水準のセキュリティを維持できる点が特徴です。
インターネットブレイクアウトのメリット
インターネットブレイクアウトを導入すると、クラウドサービス利用時の通信品質改善だけでなく、ネットワーク運用の効率化やコスト最適化など、さまざまなメリットが期待できます。主な導入効果は以下の4つです。
- クラウドサービス利用時の通信速度向上・安定化
- WAN回線の負荷軽減と帯域の有効活用
- 回線・設備コストの削減
- 柔軟なネットワーク構成
ここでは、企業がインターネットブレイクアウトを導入することで得られる代表的なメリットについて、順番に解説していきます。
クラウドサービス利用時の通信速度向上・安定化
インターネットブレイクアウトの大きな利点のひとつが、 通信速度の向上と安定化です。各拠点から直接インターネットに接続することで、本社データセンターまでの物理的な距離を経由する必要がなくなり、通信経路が大幅に短縮されます。
その結果、Microsoft 365でのファイル編集やZoomでのWeb会議、Salesforceへのアクセスなど、クラウドサービスの動作が快適になります。
WAN回線の負荷軽減と帯域の有効活用
従来型のネットワークでは、クラウドサービスへの大容量通信と社内システムへの通信が同じVPN回線を使用していたため、回線が混雑し、重要な業務システムのパフォーマンスが低下する問題がありました。
インターネットブレイクアウトを導入すると、クラウドサービス向けの通信を一般インターネット回線へ分散できるため、VPN回線の負荷が軽減され、基幹システムへの安定したアクセスが維持されます。結果として、WAN回線の増強を延期または回避でき、既存インフラを有効活用できます。
回線・設備コストの削減
インターネットブレイクアウトは、ネットワーク運用コストの大幅な削減につながる点も大きなメリットです。クラウドサービスの利用増加に対応するため、従来は高価な閉域網の帯域増強が必要でしたが、インターネットブレイクアウトを導入すれば、安価な一般インターネット回線を活用できるため、回線コストを抑えられます。また、本社データセンターの負荷が減少することで、サーバーやネットワーク機器への設備投資を抑制できます。
初期投資は必要ですが、中長期的には大きなコストメリットが得られるでしょう。
柔軟なネットワーク構成
新しい支店や営業所を開設する際、従来は本社データセンターまでの専用回線を引く必要がありましたが、インターネットブレイクアウトではインターネット回線さえあれば即座に業務を開始できます。また、リモートワークや在宅勤務の従業員も、自宅から直接クラウドサービスにアクセスできるため、働き方の多様化に対応しやすくなります。
ネットワークの拡張性と柔軟性が高まることは、企業の競争力強化につながるでしょう。
インターネットブレイクアウトのデメリットと対策
インターネットブレイクアウトには多くのメリットがある一方で、導入時に注意すべきデメリットも存在します。特に押さえておきたいポイントは、以下の2点です。
- セキュリティ対策の強化が必要になる
- ネットワーク運用や管理が複雑になりやすい
ここでは、インターネットブレイクアウト導入時に発生しやすい代表的な課題と、それぞれの具体的な対策方法について詳しく解説します。
セキュリティ対策の強化が必要になる
インターネットブレイクアウトでは、各拠点が直接インターネットに接続するため、セキュリティの境界が分散し、不正アクセスやマルウェア感染のリスクが高まります。従来は本社データセンターで一括管理していたセキュリティ対策を、各拠点でも実施する必要があるためです。
対策としては、拠点ごとに次世代ファイアウォールを導入し、不正な通信を遮断する仕組みを構築することが有効です。また、クラウド型セキュリティサービスを活用することで、拠点を問わず統一されたセキュリティポリシーを適用できます。
ネットワーク運用や管理が複雑になりやすい
インターネットブレイクアウトを導入すると、各拠点のセキュリティ設定や通信経路の管理が必要になり、運用管理が複雑化します。従来の集中管理型ネットワークと比べて、設定変更やトラブル発生時の原因特定が難しくなる傾向があります。
対策としては、SD-WANの一元管理機能を活用し、全拠点のネットワーク設定を本社から集中管理できる体制を構築するのが効果的です。また、通信経路の可視化ツールを導入することで、どの拠点からどのような通信が行われているかをリアルタイムで把握できます。
まとめ|クラウド活用に強いネットワーク環境へ
インターネットブレイクアウトは、各拠点から直接クラウドサービスへ接続できるようにすることで、通信遅延の改善やWAN回線の負荷軽減、ネットワークコストの最適化を実現する技術です。
近年は、Microsoft 365やZoomをはじめとしたクラウドサービスの利用拡大に加え、リモートワークやDX推進の加速によって、従来型ネットワークの課題が顕在化しています。こうした環境変化に対応する手段として、インターネットブレイクアウトへの注目が高まっています。
一方で、各拠点が直接インターネットへ接続する構成になるため、セキュリティ対策やネットワーク運用体制の整備は欠かせません。導入時には、SASEやSD-WANなども含めた全体設計を行い、段階的に運用を最適化していくことが重要です。
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